普天間飛行場代替施設建設事業の2回目の方法書 − 続
                            2007 08. 29 島津康男
  
異常事態の続報 
 
表記の方法書が、8月7日に事業者の沖縄防衛施設局から沖縄県知事に送付され、知事が受け取りを拒否(「留保」ともいわれている)していることは、8月10日の本アセス情報で紹介したが、重大な異常事態なので、その後の状況について続報を掲載したい。
 
 県だけでなく地元の名護市も縦覧場所を提供せず、防衛施設局は局内の他、地元にある自分の連絡所やホテルの一室などで縦覧に供している。これまた前代未聞の状況であるが、ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)は、情報公開法の手続きによって方法書の現物を入手し、自分のホームページ(http://blog.goo.ne.jp/sdcc/)に掲載している。もちろん、会員以外でも見ることができる。

 縦覧のみでコピーは不可といわれるとか、市民団体によるコピーの作成は著作権侵害にあたるといわれたとか、各地でいろいろと悶着をおこしている公告・縦覧であるが、このSDCCの場合、特にクレームはついていないようである。なお、前回には、地元の「市民アセスなご」が、独自の方法書を事業者に先立って先制公表するという快挙があったが、今回その動きはなかった。

 第一報では、手続き上での知事の受け取り拒否の意味を解説し、受け取らなくても手続きは進行することを述べたが、さらに、縦覧場所について環境影響評価法の施行規則には、「方法書を縦覧に供する場所は、次に掲げる場所のうちから、できる限り縦覧する者の参集の便を考慮して定めるものとする」とし、事業者の事務所、関係都道府県の施設、関係市町村の協力が得られた場合はその庁舎・関係施設、その他事業者が利用できる適切な施設の順に縦覧場所を例示している。
 今回の場合、第一例と最後の例を使っており、違法とはいえない。環境省の環境影響評価審査室もその見解をとっているようである。でも、もう少し積極的な介入(指導)はできないものだろうか。

 しかし、環境影響評価本来の趣旨に立ち戻った場合、上記のような状況は妥当だろうか。環境影響評価法は元来手続き法であり、しかも事業者の負担と責任によって行なわれることは確かである。だからこそ、事業者には「ねばならない」との強制表現になっており、行政・さらに住民には「ものとする」との要望表現になっている。

 その一方、環境影響評価法は「事業の実施が環境に与える影響を最小限に抑える」ための事業者の努力を求めると同時に、「合意形成の道具」とする目標を持っている。これを、私は「アセスの二本の柱」といっている(新版「アセス助っ人」(平成19年6月))。後者の柱を法文化するのが難しい(あるいは、日本の法制度がこれに慣れていない)ために、運用について「暗黙の了解」という日本独自の風土を利用しており、防衛施設局の強行突破も、県知事の拒否も、ともにこの法のこのあいまいさを利用しているわけであるが、「合意形成の道具」の一方の主役である市民を蚊帳の外に置くことになるのは基本的に許されないと考える。

 法的に許される究極の県知事の抵抗は、「公有水面埋め立て」の許可権を使うことであり、知事もその可能性を匂わしているが、これでは、環境影響評価法の趣旨を益々踏みにじるものであろう。
 
 市民団体(SDCC)は防衛施設局の方法書撤回を求めているが、環境影響評価法の趣旨を生かすには、むしろ知事が受け取った上で手続きを進め、方法書に対する知事の意見を公表し、その中で必要に応じ「事業の門前払い」の意思を示してもいいではないか。環境影響評価法に「方法書を受け取らねばならない」と書いてないと同じように、「事業を承認しなければならない」とは書いてない。

 事業実施を前提とするために「アセスメント」が形骸化している中で、今回の状況は逆に「アワセメント」や「アリバイ作り」との悪評判を払拭するのにいい機会ではないか。日本では環境影響評価の準備書段階で事業を撤回した例は少なく、まして方法書段階での門前払いの例はない。だからこそ、門前払いは環境影響評価の歴史での初の快挙となりうる。本事案でも位置の変更に伴う事業者の行動としての事実上の「方法書の出し直し」になっているわけだし、例えば韓国では方法書段階での門前払いは結構存在する。

 ここで、SDCCとは異なって事業者の送付撤回を求めていないのは、時計の針を戻すことの難しさもあるが、逆に事業の撤回を求める方が環境影響評価の筋を通すことにつながると考えるからである。

内容はどうか 
 SDCCのご努力で方法書の全文を見ることができたので、詳細な分析の前に、概観した印象を記す。第一回の方法書では、計画内容が不確定で、飛行機の種類・飛行ルート・頻度の記載がなく、このため騒音一つとっても予測・評価が不可能なこと、施設配置の記載もないという状況なのに、どういうわけか30km離れた勝連町の泡瀬干潟の環境について延々と記載されているなど、メリハリがないどころか方法書としては無意味であったが、今回の方法書はまともであろうか。
今回の方法書は301ページで、
    事業者名、事業の目的と内容    2.7%
地域の概況  61.1%
    調査・予測・評価の項目と手法   36.2%
となっている。前回に比べて100ページ以上少ないが、これは前回では事業地と直接関係のない泡瀬干潟の概況の記載が多かったためで、この部分を除くと両者の分量に大差はない。それにしても、環境影響評価の計画書であるべき方法書の観点からは、調査・予測・評価の部分が少なすぎる。(新版「アセス助っ人」の採点基準では、これが50%以上必要)。

 特に平成17年3月には、「環境影響評価の基本的事項の改正」が行なわれ、前回とは状況が変わっている。さらに、平成19年4月には「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」が出て、例えば、計画内容に不確定がある場合、複数案を提示して影響予測の対象とすることが示され、これを現時点のアセスメント手続きでも適用することが多くなっているので、これらの観点からの対比を考察する必要がある。

 結論として、これらの観点はなく、前回と同じく飛行場に一般的なオーソドックスで金太郎飴的な内容である。航空機の種類は、「米軍回転翼機及び短距離で離発着できる航空機」と前回より具体的であるが、問題になっているオスプレイ(垂直離着陸輸送機)の特定はない。特異なV字型二本滑走路を特定しているので、飛行ルートはかなり明確になっているが、頻度についての情報がないのは予測にとって致命的であろう。

 施設については、大きな影響が予想される弾薬庫・燃料庫の位置がないし、各地の米軍基地で問題になっている排水の水質、排水量が問題となろう。必要土量の90%は購入資材としているが、当然搬入となるだろうし、土取り場及び搬入ルートでのアセスメントが必要であるが、これについての記載はない。根本的には、この事例は戦略環境アセスの対象であろう(島津(2006)「戦略アセスにどう備える? 4.3 名護飛行場こそ「戦略アセス」が必要 環境技術 35 874-881」)。

 前回の方法書への審査会意見の前文ではこういっている。「当該方法書における当該事業の内容は、方法書において示された環境影響評価の項目及び手法が適切なものであるかを判断するに足るものとは言い難いものである。(中略) なお、ジュゴンについては、今後、事業者によって検討される環境保全措置のみで保全を図ることは困難と思料されることから、当審査会としては、沖縄に生息するジュゴンの保護・保全対策が早急に講じられるよう、国及び県に対して求めるものである」。この表現が今回もそのまま当てはまるのは驚くべきことである。
 調査・予測の手法の部分は環境項目ごとに表の形になっているが、前回と今回ではほとんど字句まで同じで、違うのは地図の部分だけといってよい。一寸場所が変わっただけなので、これでいいのかも知れないが、前回の方法書に対する批判に全く答えてないのは驚くべきことで、形骸化の表れといってよい。このような方法書を作らせる事業者は問題であるが、作るコンサルタントも問題ではないか。今回の版を作るのに大した手間はかかっておらず、出そうと思えば何時でも出せたわけであるが、逆にそれなら「なぜ今?」という疑問がおこる。
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