アセス情報 081206
              普天間飛行場代替施設問題の10年
                             
島津康男
日本最悪の環境アセスメント 

普天間飛行場代替施設、すなわち名護市辺野古地区における飛行場建設計画の環境アセスメントについては、
環境技術学会のアセス情報で何度となく報告してきた。
特に、沖合案から沿岸案へと計画が二転三転するごとに方法書がいくつも作られる異例な状態がおこり、しかも審査会の質問に回答困難といいながら、後出しジャンケン宜しく事業者(沖縄防衛局)が次々に情報を小出しにしたり、果ては方法書の改訂版に騒音の予測結果を載せるといった前代未聞のアセスを行っている。
又、方法書の提出前に海域生物調査をはじめ、しかもその内容を公表しないままさんご礁の破壊をおこすといった荒っぽいことをしている。私は日本の環境アセスメント史で最悪の事例とよんでいる。
二つの書籍が出た 
もともと、この事業は1996年4月12日の「普天間飛行場全面返還の日米合意」からははじまったのであるが、この度、次の二つの書籍が相次いで出版された。 
 渡辺豪著 「アメとムチの構図−天間移設の内幕」 沖縄タイムス社 2008年10月5日 202ページ
 普天間基地移設10年史出版委員会 編著 「決断−沖縄普天間飛行場代替施設問題10年史」 北部地域振興協議会 2008年10月25日 286ページ
  前者は地元新聞の記者のレポートであり、後者は地元の商工業者(つまり推進派)の団体によるものなので、同じテーマ、資料を扱いながら結論に違いがあるのは当然といえるが、その故に、比較しながら読むと真実が見えてくるという面白さがある。
一口でいうと、当事者はアメリカと日本であるが、日本では国、沖縄県知事、名護市長と役者が多く、10年の間に首相、防衛相、沖縄開発担当相、知事、市長ともくるくろと変わり、その度に駆け引きが変転して二転三転の原因になっている。沖縄開発担当相は名護市以北の沖縄本島北部振興を大きな任務とするが、その沖縄担当相にも環境相にもそして防衛相にもなった小池百合子がその時々に示した巧みな動きは、政治家の行き方として特に興味がある。
いずれにしても、各役者が勝手にアセスを駆け引き材料に持ち出すので、アセスの専門かとして痛々しい感じを抱かざるをえない。さらに、漁業組合と一般市民との分離もあって、住民は舞台にたつことが少なく、登場するのは常に建設業界である。
宮城康博氏を中心とする市民団体は、「市民からの方法書」を事業者の方法書よりも先に公表するという快挙をしたが、宮城氏が市長戦に敗れてからは音沙汰がない。又、最大の役者を例の守屋武昌防衛事務次官としている点で二つの本は一致している。
アセスとしての最大の問題は何か
 私は、計画初期の段階で戦略的環境アセスメントをかけななかたことが致命症の原因といっているが、実は2001年に防衛省は埋立工法5案、杭式桟橋工法2案、浮体工法1案の計8つの代替案を示しており、これは同時に沖合い、沿岸、陸上の立地代替案にもなっていて、この時点で簡易方式でもいいから戦略的環境アセスメントを行えばよかっと悔やまれる。
もっとも、当時は「アセスは着工のサイン」との考えが行き渡っており、県にも市にも、そして住民にも代替案の評価が頭になかったのが悲劇といえよう。知事が2度目のアセス方法書の受け取りを拒否するという前代未聞の行動に出、そして受け取りに変心した経緯と理由も詳しく述べられている。
なお、本年1月には、米国サンフランシスコ地方裁判所が国防総省に対して、「普天間飛行場代替施設の建設によるジュゴンへの影響を回避すること」との判決を出しており、これは重要な事件と考えるが、上記の両書とも触れていない。
  本年9月の環境アセスメント学会で発表した私の結論を付け加えておこう。これは重要度の順になっている。
 (1)ジュゴンを象徴とする生態系への定量的影響評価を実施すること。これが難しいなら事業の撤回を考えること。
 (2)戦略的環境アセスメントの結果を準備書に記載すること。
 (3)住民参加型アセスを準備書の公表段階から実施すること。
 (4)関連工事のアセスを実施すること。計画によれば、必要土量は沖縄全体の土砂採取量の10年以上分になる。
 (5)日時を公開した上で実機飛行実験を実施すること。
問題は辺野古以外にも 
実は、沖縄本島北部の開発問題は名護の飛行場に止まらない。名護より北部はヤンバルとよばれる森林地帯で、日米戦争が南部で行われ、北部は戦争の影響を受けなかったため、自然の残されている所であるが、その一方で米軍の野戦サバイバル訓練場となっており、空腹に耐えかねた兵士が麓の人家に入って来ることもあるという。
そして、辺野古の飛行場だけでなく、訓練場にはヘリコプター着陸地の移設が計画され、既に6ケ所の環境アセスメントが実施されているのである。
さらに、このサバイバル訓練場をアメリカ以外の兵士にも使わせる計画さえあると聞く。このヤンバルは沖縄本島の主な水源でもあり、数10kmのパイプラインで那覇市を中心とする南部の人口密集地に引かざるをえないが、その途中の中部地区は米軍基地になっており、水を通すのに大きな苦労をしている状況がる。
上記の2つの出版物はローカルの出版物のため、沖縄以外の書店では見られないが、インターネットによる入手は可能なので、一読されることを望みたい。
        
                 
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