工場排水の嫌気性処理=特集のねらい 「環境技術」2004年6月号
 排水中に含まれる有機物のうち微生物によって比較的容易に分解される有機物は、通常腐敗性有機物といわれ、水質指標ではBODとして表されるが、工場排水の中にはこうした有機物を高濃度に含む排水も多い。このような有機物を除去するには、微生物の力でもって分解・無機化するのが理に適っている。

 しかし、微生物は、酸素を必要とする好気性微生物と酸素を必要としない嫌気性微生物という2種類に大別されるので、どちらの種類を主として利用するのかによってシステムも異なってくる。好気性微生物の場合には、酸素(通常は、空気)の供給は不可欠となり、そのための電力費が維持管理費として計上されてくる。処理の結果発生する汚泥の生成量が多く、その処分にさらに費用がかさむ。他方、嫌気性微生物の場合は、微生物の活動はゆっくりしており、処理に要する時間は長く、また有機物の除去率も低い。従ってそれ自身の処理効率を上げるための工夫が必要である。好気性処理との組み合わせ方式を採用することも一つの考え方である。

 好気性処理、嫌気性処理はそれぞれ一長一短があるが、一般的には、高濃度の有機性廃水には、嫌気性微生物を利用した嫌気性生物処理が有利であるとされている。例えば、身近な例として、屎尿は濃厚であり、その処理には嫌気性処理、それに比べて都市下水は低濃度であり、好気性処理という事例が多い。
 
 無酸素のもとで進む有機物の分解反応は、酸素存在下でのそれと比較してかなり複雑であり、生成される物質の種類も多いのが特徴である。主要なものとして、メタン、炭酸ガスであり、それが大半であるが、他にも、アンモニア、水素、硫化水素等々がある。とくに、メタンガスという燃料が生成されることから、バイオエネルギーの視点からこの反応は注目を浴びており、創エネルギーとしての実施例も多い(参考:環境技術2003年8月号)。
 
 エネルギー、資源の節約という観点から嫌気性生物処理は評価されているが、工場廃水といってもきわめて多種多様なものがあり、現実にはどういった排水に適用されているのか、ここでは代表的なものとして、BOD濃度の高い食品、飲料、化学工場廃水を取り上げた。

 しかし、廃水にはその他の成分も多々含まれているのがふつうであり、なかには微生物に対して阻害作用を及ぼすものもあるのですべての高濃度有機性廃水に適用できるかどうかは、別であり、事前の検討が必要である。その意味でも、多種多様な工場廃水の水質特性についても関心が高いと思われる。 

 
 嫌気性生物処理における生物反応タンク(リアクター)の形式はこの反応効率を左右する大きな要素であるので、その変遷の歴史的経緯とともにそれぞれの特徴についての理解は、設計、運転管理の面から重要である。数種類のリアクター形式があるが、オランダ生まれのUASB(上向流式嫌気性汚泥床)方式はそれまでの方式にくらべて単位容積あたりの微生物濃度を格段に高めることができる、つまりコンパクトな装置で効率良く処理が可能である、という点で評価は高い。とくに食品、飲料廃水分野での事例が増えつつある。この方式の特徴は、担体は投入しないで、リアクター内の構造や水の流れに工夫をこらし自己造粒化させた汚泥を利用していることである。

 こうしたリアクターの開発が進む一方、運転管理上の改良、工夫によって嫌気性処理の効率改善が図られてきた。とりわけ微生物を活性化させる活性剤の適切な使用や固形有機物が多い排水への可溶化技術の適用には最近注目すべき事例が報告されている(環境技術2003年5月号、2001年11月号)。
                                       菅原正孝(本誌編集委員/大阪産業大学)