水道水質基準改定後の動向  =特集のねらい     立命館大学  金子光美
 
 水道法に基づく水道水質基準が平成15年に改正され、今年の4月1日から施行された。そこで、新しい水質基準を理解してもらうために、行政、水道事業体、民間の方々から、それぞれの立場から新しい基準についての考えやフレーム、基準のもたらす影響と対応について執筆頂いた。今回の基準改正は平成4年以来のもので、近年はおよそ10年ごとに見直されている。改正のたびに基準の項目と基準のフレームが大幅に変更されている。科学的知見の蓄積と分析技術の向上に合わせて基準を見直すのは、柔軟性があり合理的と思われる。しかし、完全に合理性に則って提示されているのか、基準改正前の水は何を保証していたのかよくわからない面もある。

 水はものをよく溶かすホモジニアスになりやすい物質であること、汚染されていない水を安定したシステム(変化は損失水頭の経時変化のレベル)で処理をしていることを前提として、わずかな量でわずかな回数で品質保証するのはわかる。しかし、検査水量、頻度とリスクの関係を明記したものはない。ということは現在の水質検査でどれほどの安全性を保証しているのかわからないということである。水質管理における検査水量と頻度が安全性保証の上で持つ意味は、水質基準値がどれほどの安全性を保証しているかということとは異なる。

 水質管理とは製品である送り出す水の品質保証のためのものである。安全の程度を、検討過程をホームページで載せて済ますのでなくて、基準の中で表示すべきであると考える。そのような数字が出てきた根拠を、文献を調べるような作業しなくてもすぐわかるようにすると言うことである。今回の改正では基準値の公表と需用者の意見の取り入れを唱っていて、水質基準の内容と結果とに関する透明性は高まった。そのような透明性をもう一歩進めて欲しい。さらに、説明責任を果たすなら、改正以前の水はどれほどの安全性を保証していたのかも示すべきではないだろうか。さもないといままでの基準はおかしかった、だから良くない水を送っていた可能性もあると指摘されても仕方がない。

 水道の民営化の議論が高まる中、水質業務だけに限っても、検査業務の民間委託が容易になった。とくに小規模事業体ではその方向に進むと思われる。大規模事業体でも検査項目の事業体間の分散などが考えられる。また、分析精度の向上と責任の在り方が明示された。分析をするということにだけに視点が当てられると、事業体の水質部門の弱体化、それによるシステムとしての水質管理の弱体化に繋がりかねない。生産工場で工程管理を外部に委託して果たして大丈夫か。水質管理が水質検査だけでなく工程管理に直結しなければ、水質の変化に対応できない。   

 水道水が安心して飲めるためには、合理的な水質基準の設定と遵守のほか、水源保全、適正な処理システムの計画と設計、適正な維持管理、供給水の品質管理とその体制の完備、給配水システムの適正化、検査技術の改良、監査体制の充実(ハ−ドとソフト)、職員の自覚が必要であり、システムを水質の安全のために管理するのが水質管理であるが、安心して飲めるかどうかの最終確認は、水質を分析して行なう。また、水質基準は水道水水質を規定し、システム全体の運転目標にもなるから、上記の要件の中でも特殊な価値をもつ。

 水質基準は一般に国が提示し、水道事業体は与えられたものとして遵守する。国が基準を決めるのはそれだけ人体の健康との関連が高いからであろう。国(州)によって基準値が同じでないように、都道府県によってあるいは自治体によって基準が異なっても一向にかまわないのではないか。国は項目と判断基準について目安を示すだけとし、具体的な基準は地方で決める。地域によって人の健康レベルが異なるのはおかしいという意見も出ようが、国によって基準項目とその値が異なることは、国によって水に対する判断が異なるということであり、健康は水だけで決まるものではない。水だけでなく食品その他の安全性というものを地域ごとに決めてもおかしくないと思う。法的基準を遵守していても水質による事故が起きた場合、製造者責任が問われる時代である。基準が隠れ蓑にはならない。

 職員は「技術者は公衆の安全、健康、福利を最優先する」ということを銘記すべきである。