津門川(つとがわ) ー地域住民に愛される街中の川ー 山本義和(神戸女学院大学) |
| 1.プロフィール 兵庫県西宮市は、大阪と神戸の中間に位置し、面積100km2、人口約46万人の都市である。市域は南北に長く、その中央部を東六甲山系に属する山地が東西に横断しており、市域のほぼ中心部には西宮市のシンボルともいうべき海抜309mの甲山がある。西宮市は「山」、「川」、「海」、「街」を兼ね備えており、人と環境との関係を考えるうえでは、地理的・文化的条件に恵まれている。市域には武庫川や夙川などの二級河川が17本あり、これらに流入する支流や水路が数多く存在する。 津門川は、市域の中央部を北から南に流れる二級河川で、公式に津門川と呼ばれる区間の全延長は3,455mである。「語り部ノートにしのみや(西宮市環境保全課2002)」によれば、昔の海岸線は現在よりもかなり北部に位置し、港の地域は津門と呼ばれていたという。なお、津は港を、門は入口を意味する用語である。この河川の大部分は、いわゆるコンクリート三面張り構造を基本とする形状で、いくつかの小河川や水路、そして最後は東川と合流して今津港に注いでいる。 2.津門川の水源と水路 津門川の主な水源は、武庫川の百間樋水門からの導水(写真1)と山陽新幹線六甲トンネル内の湧水であり、これに仁川からの導水が加わる。武庫川からの導水は、1600年代に下流地域の田畑に農業用水を供給するために、天井川である仁川の川床に木製の樋を伏せて設けられたものである。この樋の長さが百間(約180m)であることから、百間樋と呼ばれるようになった。百間樋からの導水は、田畑の地域を経て、数箇所の暗渠を通り、阪急電鉄今津線門戸厄神駅付近で、六甲山トンネルからの湧水を水源とする水路と合流する。百間樋には現在も管理者がおられて、大雨の際には武庫川の水門を閉じて流量調節がなされている。 西宮市には数多くの水路があるが、水路は防災にも役立っている。阪神淡路大震災の時に、西宮市の火災発生件数は神戸市を上回っていたが、焼失被害は西宮市の方がはるかに少なかった。これは市内を流れる数多くの水路が、消火に役立ったことによると言われている。 山陽新幹線六甲山トンネル(16km)は1972年に完成した。トンネルから出る湧水は鯨池浄水場に送られ、フッ素濃度が高いために、淀川、武庫川、地下水とブレンド後に上水道として利用されている。浄水場に送られなかった残りの水が、ほぼ安定した水量で津門川に供給されている。 3.津門川の水質 2003年度の年間水質調査結果(神戸女学院大学・中澤 暦ら)によると、上流から下流にもうけた5つの定点でのBOD平均値は1.8mg/?であり、その他の水質項目を含めて総合的に判断すると、その水質はA類型に相当する。とくに、六甲山からの湧水や百間樋公園付近の水は、きれいに澄んでおり、川歩きをしている者に好印象を与えてくれる。門戸厄神駅あたりから下流になると、浮遊物質、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素が徐々に増加することからも明らかなように、水質は少しずつ低下する。また、街中を流れる川(写真2)を反映してかゴミが増え、川床が赤茶けた色調を呈し、感覚的に良好な水とは判断されにくくなってくる。親水という観点からみれば、科学的水質評価とともに人の感覚的評価が重要と感じられる。 4.津門川の生物 津門川の川面や水辺を注意して覘くと、種々の生物を目にすることができる。 魚類:2003年7月に流域全体でおこなった魚類相調査(近畿大学・藤田朝彦ら)では、19種の魚類(ウナギ、アユ、コイ、ギンブナ、カワムツ、オイカワ、ニゴイ、カマツカ、コウライモロコ、ドジョウ、ナマズ、カワヨシノボリ、トウヨシノボリ、ウキゴリ、マハゼ、ドンコ、スズキ、ボラ、メナダ)が確認できた。詳しく観察すると、上流域、中〜下流域、下流域に生息する魚類の棲み分けも観察できる。 阪急電鉄神戸線の約100m上流には、落差2mの堰があったが、2003年3月末に階段式魚道(写真3)に改良され、この魚道を利用して幾種類かの魚類が遡上している。魚道のすぐ上流で捕獲したアユ3個体(写真4)の耳石Sr /Ca比の分析結果(東大海洋研究所・新井嵩臣)は、この3個体が海から遡上した履歴を示していた。アユが、大阪湾から津門川の河口を経て、魚道を利用して街中まで遡上していることにロマンを感じているのは筆者だけであろうか。 国道171号線から阪急神戸線までは、放流された錦鯉を含めてかなり多数のコイが見られる。コイに餌を与える人達も多く、コイの存在が流域住民に川への関心を高める役割を果たしている。しかし、その一方では、コイによって水質が悪化し、水生生物が食い荒らされるなどの問題点も生じている。2004年の夏にはコイヘルペスが発生し、コイの個体数は減少したが、11月末現在では絶滅を危惧するような状況には至っていない。 植物:津門川の大部分はコンクリート三面張り構造であるために、水辺の植物は少ないが、国道171号線から阪急神戸線までの区域は両岸が石垣でその隙間や水際にはかなりの種類の植物が生育している。2003年度調査(神戸女学院大学・野嵜玲児)では、国や兵庫県のレッドデータブックにも記載されているイヌノフグリを含めて139種が記録されている。 鳥類:阪急神戸線から上流の地域で2003年4月から12月までの49回にわたる調査(神戸女学院大学・遠藤知二ら)においては、全部で12種(カラス、ドバト、スズメ、チドリ、ツバメ、キセキレイ、セグロセキレイ、マガモ、カルガモ、ダイサギ、アオサギ、コサギ)、520個体が目撃されたに過ぎない。 津門川の生物を守り育てるためには、大雨で増水した時に激流となり、川が直線的で瀬や淵が少ないために、多くの魚類や水中植物が流失することに対する対策が必要であろう。また、河川生態系を復元させるためには、水田や周辺水域とのネッワーク化、鳥類や昆虫にとっては河川周辺の陸上での環境を含めて考えることも重要である「西宮の川を学ぶ−指導者用資料集−(NPO法人こども環境活動支援協会2004)」。 5.住民の意識と環境保全運動 津門川を地域住民はどのように捉えているのだろうか。2004年6月に、地域住民を主たる対象者として、この河川についてのアンケート調査を行なった(兵庫県立健康環境科学センター・古武家善成ら)。有効回答数は613名で、回収率は約60%であった。河川環境や現状の認知度に関する項目では、川の名前や住民による川の保全活動はよく知られており、それを評価する割合は90%と高かった。 川の評価に関しては、生物、水質、水流など自然の豊かさや川の景観に関する項目では評価が低く、津門川の環境改善を考える上での示唆を得られたが、都市河川の整備の難しさも同時に感じられる結果となった。 西宮北口付近の住民グループ(公同教会・幼稚園、にしきた商店街など)は、この川の環境保全活動に熱心に取り組んでおられる。具体的には、川の定期的な清掃、錦鯉の放流、七夕フォーラムの開催、川辺の七夕笹飾り、クリスマスには川面のコルミナリエ、川の改良に向けての兵庫県への陳情などである。陳情の成果として、魚道が設置され、川の中に20数箇所の水生植物育成地も設けられた。2003年12月6日に、水環境学会関西支部川部会が行なった津門川ウォッチングは、住民グループの協力を得て行なわれたものである。 神戸女学院大学人間科学部の環境・生態系グループでは、地域住民の方々の協力を得ながら「津門川水系の環境保全に向けての調査・研究」を行なっており、日本で最初に「環境学習都市宣言」を行なった西宮市からパートナーシッププログラムとして認定をうけて、活動を続けている。 6.津門川の探索コース 津門川の2つの水源から今津港までの全コースを徒歩だけで回るのは難しいでしょう。まず、最初は阪急電鉄仁川あるいは逆瀬川駅から阪急バス(35番系統)に乗車して、東蔵人か美幸町で下車します。東側に少し歩くと武庫川の堤防です。そこで、百間樋水門から水が取水される様子を見て、その後は仁川の川沿いの百間樋公園まで移動します。ここでは、百間樋用水の歴史を振り返りつつ、仁川と公園の下を通る百間樋用水の出口を観察するのがよいでしょう。 もう一つの水源である六甲山トンネルの湧水へは、山陽新幹線沿いに徒歩で行くことが可能です。この湧水は年間を通じて20℃前後のとても清涼な水です。この近くには厄除け祈願の寺として有名な門戸厄神(東光寺)があり、ここに立ち寄るのもよいでしょう。そこから旧西国街道の道筋を歩き、国道171号線を横断して津門川の川面をのぞきながら、魚や水鳥、水生植物の育成地などを観察しましょう。最後には魚道の下流に群れるコイを眺めて、西宮北口駅付近の街でお茶を飲んで、帰路に着かれるのがお奨めコースです。この川歩きは、ほぼ半日のコースとなります。 山本義和(神戸女学院大学人間科学部) (「環境技術」2005年1月号掲載) →TOP |
![]() 百間樋水門→百間樋公園→山陽新幹線北側→甲東園駅→六甲山トンネル湧水→門戸厄神駅→公同幼稚園前→魚道 |
![]() 写真1 武庫川から百間樋水門への導水路 |
![]() 写真2 街中を流れる津門川像 |
![]() 写真3 津門川に新設された階段式魚道 |
![]() 写真4 魚道の上流で捕獲されたアユ |