| 「環境技術」2007年9月号:<家畜糞尿のメタン発酵処理事業の展望と課題> 特集のねらい 京都大学 藤川陽子 本特集は、「バイオガス事業の現状と今後の展望」「南丹市八木町地区バイオマスタウン構想の実現を目指して」「メタン発酵消化液の肥料化への取り組み」「メタン発酵消化液が投入された水田内での窒素動態」「消化液農地投与による環境保全」の5報から成っている。 家畜糞尿は我が国の有機性廃棄物全体の33.5%、窒素換算では全廃棄物量の57%を占める。嫌気消化・バイオガス発電システムにより、家畜糞尿を廃棄物として処理するのみならず、エネルギー産生を行い、カーボンニュートラルなバイオマスを地球温暖化対策に利用する試みが注目されている。 実は、家畜糞尿のメタン発酵事業については、消化液の処理費が必要である間はCO2削減効果が低い。例えば南丹市八木町の家畜糞尿メタン発酵施設では、消化液の排水処理を行う場合74t-CO2/yであるが、消化液を液肥として全量転用した場合327t-CO2/yと削減効果は向上する。しかし我が国では、欧米と異なり大部分の畜産農家が家畜の排泄物を散布する飼料畑を有さない。我が国農業の実情を鑑みると家畜糞尿の消化液を水田に肥料として散布することが現実的である。ただし水稲は比較的精緻な施肥設計を要求し、消化液の水田散布は、世界的にも例がない我が国独自の課題である。 そこで、本特集の執筆者らはNH4-N、有機態窒素、リン、カリウム等の肥料成分を含む家畜糞尿消化液を液肥として水田に投与する研究を「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」として進めてきた。本特集の記事は、家畜糞尿のメタン発酵処理事業の全貌とあわせ、この研究成果の一部を紹介している。 消化液の水田散布実現にはいくつか問題がある。水田は畑と違ってあぜで囲まれており、液肥散布車が走り回って消化液を散布することができない。また、液肥は含水率が高い。圃場への液肥輸送と均一な散布方策を、許容できるコスト内で実現する必要がある。 また消化液液肥をふくむ有機肥料の使用には生産効率と環境安全上の両面の問題がある。まず有機肥料は化学肥料に比べ、窒素成分量が低く、かつその可給態化の速度が環境条件に左右されやすいので肥効が把握しにくく、窒素形態変化の特徴を踏まえた施肥計画の確立が不可欠である。概して遅効性の窒素分が多いので過剰施用で環境の窒素汚染を招きやすい。また有機肥料は生物起源の重金属、塩、病原性微生物、農薬などを含み収穫物や土壌を汚染する可能性がある。 更に現代の牧畜業は、生産性を高めるため、繁殖サイクルを短縮し、医薬品やホルモン剤、高栄養の飼料の使用と高密度の飼養を行っている。そのため、消化液の農地投与の環境安全に関しては、いわゆる富栄養化物質のみならず、微量物質や薬剤耐性のある病原性微生物による環境と収穫物への影響や、揮発性有機化合物が大気質に与える影響の検討が要る。 なお、有機性廃棄物を堆肥化すれば資源循環型の農業が実現でき環境にも優しいという説もある。しかし、家畜飼料や食料の大部分を輸入に頼るわが国では、既に栄養分の地域内循環は破たんし、廃棄物を堆肥化しても水環境汚染や土壌への肥料成分の蓄積はやまない。以上の問題に正面から対処する研究開発が求められる。 |