由良川と桂川の源流とダムめぐり

−京の秘境「芦生」「広河原」と大野ダム・日吉ダム−

              海老瀬 潜一 (摂南大学) 
日本水環境学会関西支部川部会では、関西の川を散歩して、水辺環境の観察結果を本誌に2004年4月号から2006年1月号まで20回にわたって連鎖してきましたが、事情により1年あまり休載しました。今回、2007年4月号より2ヶ月に1回程度のペースで連載を再開をして参りますので、あらためてご愛読のほどお願いいたしますと共に、共に歩いてみようと感じて頂ける方はご一報下さい。
 1.二条駅から高雄を経て広河原へ
 2006年6月17日(土)9時50分に,JR嵯峨野線と京都市営地下鉄の二条駅を車4台を連ねて淀川水系桂川の源流を目指して出発した。まず,国道162号を北上し,新緑の紅葉の目映い高雄を通って栂ノ尾で,一旦車列を整えるために小休止した。鳥獣戯画の高山寺下の栂ノ尾駐車場前は,保津峡で保津川(桂川)に合流する清滝川の清流で,隣には高雄水力発電所もある。さらに北上して美しい北山杉の麓を通り,川端康成の「古都」(双子姉妹二役の岩下志摩主演の松竹映画)舞台や磨き丸太の作業の見られる北区中川地区はトンネル開通で通らず,前年に編入されて京都市右京区京北となった旧京北町周山の「ウッディランド京北」(大堰川(桂川)と弓削川の合流点)で休憩した。
 周山から国道477号の大堰川沿いに上り,幕末に維新勤王隊(山国隊)を出した山国護国神社,室町時代北朝初代の光厳天皇ゆかりで桜の名所の「常照皇寺」,年代物の黒田水力発電所を通過し,ここからは京都市左京区となる花脊から府道38号を北上して京都市北東端の広河原に達した。広河原は大堰川の水源で堰源地区と称され,かつて北桑田郡に属していたが五十年以上の昔に京都市に所属変えし,京都の三条京阪から鞍馬街道経由の京都バスの終点となっている。水田が始まり,茅葺き民家や炭焼き窯跡も見られる桂川(1100km2)の最上流部であり,桂川管理起点標の杭を確認した。以前,花脊スキー場も存在したが,現在は峠を越えた旧美山町(現,南丹市美山町)側に佐々里スキー場が存在する。この直ぐ東の隣接流域は,比良山系の西側(朽木谷)を北流して琵琶湖に流入する安曇川(306.9km2)の源流域で,京都市内の山地に属し,丹波・山城と近江・若狭の国境が近い。

 2.日本海と太平洋の分水嶺を越え,芦生へ
 広河原の桂川源流域をしばし散策し,京都府内で太平洋側(桂川)と日本海側(由良川1880km2)の分水嶺の佐々里峠(府道38号)を越えた。峠の七曲がりの坂道は自転車競技者の訓練フィールドでもあり,汗を浮かべ苦しい顔でこぎ上って来る若者達とすれ違った。山坂道を下って佐々里の出合橋で由良川本川右岸沿いに上り,由良川の源流域入口の京都大学農学部付属演習林(現,フィールド科学教育研究センター森林ステーション芦生研究林:森林総面積4200ha)に12時半過ぎに到着し,施設内の広場で昼食を摂った。合併後に南丹市美山町芦生となった旧美山町芦生は芦生なめこ生産組合が山菜加工や木工品でまち興しをして,若者流出による廃村の危機から脱した経緯がある。
 演習林の約半分は,人手の加わらない天然林であり,奈良県の大台ヶ原と並ぶ原生林で,京都の秘境とも称される。1965年に福井県内の原子力発電所の夜間余剰電力で演習林内のダム(上部ダム)に揚水し,昼間福井県側(下部ダム)に落として発電する揚水発電ダム計画が持ち上がった。地元では賛否分かれる大問題であったが,全国的なダム建設反対運動の機運もあり,現在は一段落し,計画は止まった。芦生の灰野以奥の共有林を1921年以来借り上げていた京都大学が管理し,木材価格の低迷もあって原生林の半分が残り,現在は貴重な学術研究の場として維持されている。
 芦生演習林への立ち入りは,芦生の森林ステーション事務室に願いを提出して許可を受け,後日に使用報告を出すのが正式の利用法であり,今回はこの手続きに従って場内の案内図等を頂いた。ただ,三国岳(959m)付近の尾根や峠は京都北山の登山コースであり,七瀬自然観察道には登山者の通過も見られた。この付近の由良川上流部や芦生特別区はアマゴ釣りのメッカであり,由良川橋(写真1)を通って左岸側の旧トロッコ道を上流に歩く由良川源流沿いの七瀬自然観察道でも釣り人の釣棹のしなる様子が木の間から見えた。七瀬自然観察道付近の植生は多様で,傍を冷涼な清流が流れていた。かつての灰野集落跡の傍に由良川管理起点標の杭があり,わずか4kmの直線距離で2箇所の源流点を確認できた。大学の事務所付近(写真2)は海抜356mであるが,年間降水量2375mm,最大積雪深の平均は約1mで,2005〜2006年冬季の積雪は久方ぶりに深く,4月初めまで残雪が見られた。

 3.美山茅葺きの里から大野タダムへ
 芦生から由良川右岸沿いを田歌経由で下り,中地区の自然文化村(左岸側)や潜没橋,清流でのアマゴ釣りの風景(写真3),見事に保存されている美山茅葺きの里(右岸側)などの写真撮影をして,府道38号から安掛で国道162号に入った。深見川が由良川に合流する安掛付近は,赤いアーチ橋や道の駅もあり,ドライブでの観光立ち寄り地点として賑わっている。国道162号を静原を経て,由良川右岸沿いの府道12号を下り,和知町との境界に近い樫原地区の大野ダムに着いた。昭和28年の大水害をもたらした13号台風を経験して,昭和36年に完成した京都府管理の重力式多目的ダムである。
 堤高61.4m,総貯水量2855万m3,集水面積354km2で,虹の湖(湛水面積1.862km2)がある。大野ダムの水質での問題は記憶にないが,2004年10月20日の台風24号による増水で,由良川下流の河川沿い国道175号(舞鶴市志高)で観光バス立ち往生事件の生々しい報道があり,ダム放水操作管理が話題となった。ダム見学には,先に資料を頂いていたが,ダム堰堤入口の管理事務所前にビジターセンターがあり,無人であるが自由に入れた。説明板パネルやディスプレー映像の展示ホールや資料の閲覧コーナーが設けられ,堰堤上流側の湖(写真4)の周縁部は桜の公園やパターゴルフ場をもつ散策路が整備されている。

 4.地域に開かれた日吉ダムへ
 大野ダムの見学をすませ,府道12号を戻り,和泉から府道368号で,宮脇から府道19号の原(由良川支流原川流域)を通り,トンネルを出て桂川流域の南丹市日吉町に入った。田原川沿いの府道19号で殿田のダムサイトを経て,桂川本川の左岸側上流にある日吉ダムビジターセンターでダム湖の美しい夕景を眺め,係員の方からパネルや映像による説明を受けた。水資源機構管理の日吉ダムは平成9年に完成し,堤高67.4m,総貯水量6600万m3,流域面積290km2で,天若湖(湛水面積2.74km2)がある重力式多目的ダムである。ダム堰堤は夜間照明され(写真5),ダム直下には温泉・プール・土産品直売場のスプリングス日吉がある。日吉ダムは,優れた景観を創出したということで1999年日本建築学会賞を授与され,1996年にはふるさと切手にもなっている。
 亀岡から嵐山への保津川船下りの営業日数増加の報道のように,ダムは下流の維持用水確保で効果があった。ダム湖の水質関係では,湛水直後には赤潮現象が見られたが今はない。2004年10月20日の台風24号で完成以来最大の出水となり,ピーク流量カット効果のほか,濁水の長期滞留現象をもたらした。関西電力天若ダムがプレダムのように流入端にあり,取水された一部の水はダム湖を通らず本川に戻る。天若ダム直下や谷川の入り江には釣り客も多い。スプリングス日吉で夜間照明されたダム堰堤を見上げて夕食を摂ったのは19時前で,その後,JR嵯峨野線園部駅で解散した。
         写真2 演習林事務所
        写真5 日吉ダム
       写真4 大野ダム
      写真3 由良川と釣り人
二条駅→高雄→周山→常照皇寺→広河原(桂川源流)→
京大演習林(由良川源流)→茅葺きの里→大野ダム→
日吉ダム→園部駅
   写真1 由良川橋(自然観察道入口)