「環境技術」2017年4月号 記事情報

掲載年 2017
巻(Vol.) 46
号(No.) 4
179 - 179
記事種類 特集
記事タイトル [珪藻類が指標する様々な環境]ー特集のねらいー
著 者 根来健
第1著者ヨミ NEGORO
第1著者所属 龍谷大学非常勤講師
要 旨
特集タイトル 珪藻類が指標する様々な環境
特集のねらい 水中の様々な微生物が水質浄化に大きな役割を果たしていることは,環境問題に携わる人々によく知られている.しかし,水中の微細な藻類の一群である珪藻類が,私たちの生活に大きくかかわっており,様々な環境指標として用いられていることは,一般にはあまり知られていない.
珪藻類は,単細胞性の生物であり,数μm〜数百μm の非常に小さな植物である.ケイ酸質(ガラス)の固い殻で覆われており,この殻の微細な模様は種類ごとに異なっている.生息域は,陸水域から海洋,強酸性の温泉水,湿地の表面など多岐にわたっており,それぞれの環境に適した種類が生息している.珪藻類は,水域における一次生産者の中心をなしており,魚類等の様々な動物の餌として重要な役割を果たしている.海洋における全光合成量の40%強を担っているとされ,水中に移行した大気中のCO2を有機物として取り込むことで,地球温暖化の抑制にも貢献している.一方,何万年にもわたり海底に降り注いだ珪藻類の死骸に含まれる有機物が,現在産出される石油の原料になったともいわれている.現在では,珪藻類を大量培養することでバイオ燃料を生産する研究も進められている.
1960年代から1990年代にかけて我が国の河川の汚濁が進んだ.河川の汚濁度を判定する手法の一つとして,河床の石礫に付着して生育する珪藻類が注目され,珪藻の種類と水質との関係の研究が行われた.採水した水の化学分析から得られた水質データは,あくまでその一瞬の水質を表しているに過ぎない.一方,河床に付着している珪藻類は,一定の期間の水質に適応した種類が生育しているので,珪藻類を調べることによって水質・汚濁度を判定できるとするものである.現在もアセスメント等で利用されていることから,その注意点と課題を掲載した.
すべてではないが,珪藻の殻は堆積して地層の中で微化石となる.様々な研究から,地層から検出される珪藻化石を用いて古環境を再現することが可能となっている.過去の地震や津波の影響を解明する研究も進められている.
その指標性は,以前から法医学の分野においても利用されてきた.例えば,大阪湾に浮かんでいた水死体に飲み込まれていた珪藻類を調べることによって,海で水死したのか,淀川の上流で水死した後流れてきたものであるのかを判定することができる.大きな河川のどの位置で水死したかを推定する研究も進められている.
水道水を作る工程(浄水処理工程)では,珪藻類は様々な障害をもたらす生物としても古くから世界的に知られている.水道事業で生物試験を担当する職員は,毎日原水中に含まれる珪藻類の種類と数を調べてその動向を把握することで,適切な水処理方法を選択して浄水処理に努めている.特定の珪藻類の増加は,処理に要する薬品量や機械の運転コスト,浄水汚泥の処理費用等にも影響を及ぼし,大きな環境負荷を与えることになる.
ノーベル賞の発足にも珪藻類が大きくかかわっていることはあまり知られていない.爆発力が強い液体のニトログリセリンは取り扱いが非常に難しいものであったが,ノーベルは珪藻土にしみ込ませることにより安全に持ち運べるダイナマイトを開発し,武器商人として膨大な資産を残した.その後ダイナマイトは,珪藻土とは別の素材を使うようになったが,その開発及びノーベル賞の創設には珪藻類が大きな役割を果たしている.
溶鉱炉の耐火レンガ,シックハウス対策としての珪藻土,ビールの製造にもかかわっているという,珪藻類がかかわる様々な環境技術の一面を特集する.