「環境技術」2017年5月号 記事情報

掲載年 2017
巻(Vol.) 46
号(No.) 5
233 - 234
記事種類 特集
記事タイトル 琵琶湖淀川水系における地下水資源の持続可能な利用を目指して
特集のねらい
著 者 藤川陽子
第1著者ヨミ FUJIKAWA
第1著者所属 京都大学
要 旨
特集タイトル 琵琶湖淀川水系における地下水資源の持続可能な利用を目指して
特集のねらい 1.特集の目的と概要
 大阪・京都は水道水として広域水道により供給される琵琶湖― 淀川水系の水を主に利用してきた.ただし,この地域でも広域水道の水と並行して地下水を利用している市町も京都の南山城や大阪の北部地域に存在する.このような地下水利用は,水道水源を多様化して災害時のリスクと水道料金を低減化する観点からは是非とも必要な方策である.また,ほどほどの揚水は帯水層の水交換率を高め,過去に人為起源の汚染のあった地下水を浄化する作用もある.いずれにしても,地下水資源賦存量を見極めながら適正な地下水利用を進める必要がある.
今回特集では,1番目で,地下水利用の盛んな高槻市について,地下水利用状況の推移を紹介したのち,同市の地下水涵養源は淀川ではなく芥川と考えられること,三河川に囲まれた12.の地域の水収支を計算したところ流入と取水・流出水はほぼ均衡しているとの結果が紹介された.2番目では,大阪水盆の地質地形学的特徴の解説の後,大阪の地下水を浅部・深部・高深度地下水にわけ,それぞれの水質の特徴と賦存量・停滞度について詳しく紹介されている.3番目では,京都水盆の地質地形学的特徴の解説の後,井水の主要な陰・陽イオン成分分析から,地下水をタイプT(山地丘陵型),タイプI(I 市街部地表水涵養型),タイプII(I 市街部深井戸型),タイプIV(郊外型深層地下水)に分類できることを示した.4番目では大阪・京都における地下水利用状況を紹介するとともに水質上の問題のある地下水の物理化学的・生物学的処理方策等について論じている.以下では本特集の内容の理解を助ける基礎的事項を紹介する.
2.地下水の物理
 地下水の地層中の分布を図1に模式的に示す.不圧帯水層または被圧帯水層中の地下水以外に,宙水として存在する地下水もある.いずれにしても難透水性・易透水性の互層となった地層の易透水性の部分から地下水を揚水するのが一般的である.地下水の地下水面から上は不飽和帯(通気層,vadose zone)となるが,まず水面から毛管上昇により毛管水が分布する領域が通気層下部にあり,その上に中間層(懸垂水帯),その上に土壌水領域がある1).土壌水領域でも微視的には毛管上昇現象等が起こる.通気層は雨水浸透が起こる領域である.大規模な帯水層または相互に接続した帯水層群を「地下水盆」と呼ぶ.
被圧帯水層は,常に飽和状態にあり,被圧帯水層から流出する水の量=帯水層の間..体積の収縮+水の体積膨張(1)
という関係が成立する.不圧帯水層では
比貯留係数(または比湧出率,specific yield)=岩体・土塊から重力で排水される水の体積V1÷当該岩体・土塊の体積(2)
比残留係数(specific retention)=岩体・土塊中に重力に抗して残留する水の体積V2÷当該岩体・土塊の体積(3)
が定義されている.今考えている岩体・土塊中で他の間..と連結していない間..にある水の容積をV3とするとV1+V2+V3がその系に含まれる水の総量となる.比貯留係数(比湧出率)は地盤の透水性と相関する.
地下水においても流線上で水理学で習う式(4)
のベルヌーイの法則が成立する.
v2/(2g)+P/(ρg)+h=一定(4)
ここでv,g,P,ρ,h はそれぞれ地下水流速(m/s),重力加速度9.8(m/s2),水圧(s/(m s2)),地下水の密度(s/.),基準面からの高さ(m)である.v2/(2g),P/(ρg),hはいずれも長さの次元を持ち,それぞれ速度水頭,圧力水頭,位置水頭と呼び,これらの総和を全水頭H と呼ぶ.ただ,地下水の流速は通常遅いので,速度水頭は無視して圧力水頭と位置水頭の和を全水頭H とする.なお,水理学では圧力水頭と位置水頭の和をピエゾ水頭と称している.地下水の流動は一般的には式(5)のダルシーの法則で表わされる.地下水流速q=−透水係数×∂H/∂z (5)
..H/..z は動水勾配ともよぶ.z は流れの方向の座標軸である.q は供試体断面積あたりの流速でθを地質媒体間..率とするとq=vθの関係がある.
3.地下水の水質形成
地下水の起源には,降水,河川や湖沼の水が地中に浸透してできたもの,海水が地質学的事象で地層中に閉じ込められてできたもの,マグマが冷えた時にできたもの,がある.いずれの場合も,鉱物の溶解やイオン交換,組成の異なる地下水同士の混合,酸化還元反応の進行により地下水の水質は時と場所によって変化する.典型的な例では流動に伴い,地下水の水質は,低塩類の地下水→Ca(HCO3)2型の地下水→Na(HCO3)型の地下水のように進化する2).地下水に含まれる代表的な陽イオンであるNa+とCa2+を比べると,Ca2は地質媒体にイオン交換吸着したNa+と式(6)のように交換する.X はイオン交換体を示す.
Na2X+Ca2⇔ CaX+2Na+ (6)
また,斜長石や方解石の溶解あるいは沈殿は,Naイオン濃度増加やCa イオン濃度の増減を起こす.一方炭酸成分については地中環境での有機物の分解,鉄還元反応,硫酸還元,方解石溶解(式(7)〜(10))で生成しうる.
O2+CH2O → CO2+H2O (7)
4Fe(OH)3+CH2O+7H+→ HCO−3 +4Fe2++10H2O (8)
SO2−4 +CH4+2H+→ H2S+CO2+2H2O (9)
CaCO3+H+→ Ca2++HCO −3 (10)
さて,地下環境では速度は緩慢であるが酸化還元反応が絶えず進行している.地下水中にある代表的な酸化・還元化学種の組み合わせを表1に示す3).表の上位ほど酸化的な条件であり表の下位ほど還元的な条件である.酸化還元対のうち高い酸化還元電位を持つ電子受容体(電子を受け取りみずからは還元される物質)が,相対的に低い酸化還元電位を持つ酸化還元対の電子供与体(電子を渡しみずからは酸化される物質)を自発的に酸化することができる.例えば表中の@とG,CとG,DとEの組み合わせが先述の式(7),(8),(9)である.
参考文献1)ドミニコP. A., シュワルツF. W.;地下水の科学I―地下水の物理と化学,土木工学社,235p.,1995.2)Foster M.; The origin of high sodium bicarbonatewaters in the Atlantic and Gulf coastal plains,Geochim. Cosmochim. Acta., 1(,1), p.33―48, 1950.3)I. Clark; Groundwater Geochemistry, CRC Press,421p., 2015. (図表省略)