「環境技術」2017年10月号 記事情報

掲載年 2017
巻(Vol.) 46
号(No.) 10
533 - 537
記事種類 特集
記事タイトル 生物の生息・生育空間としての緩傾斜護岸の有効性と課題
著 者 日下部敬之
第1著者ヨミ KUSAKABE
第1著者所属 地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所
要 旨 1.はじめに
 沿岸の浅海域は,海藻・海草が繁茂し,藻場を形成しており,それらが動物に餌や生息場所を供給することにより,沿岸水産資源を維持する上で重要な機能を果たしている1).海藻・海草が生育するためには太陽光が必要であるため,傾斜が緩やかであれば海底単位面積あたりの日射量が多くなり,かつ生育可能な浅い範囲の面積も大きくなるので藻場形成に有利である.また,浅海域,特に潮間帯付近の底生生物は水深に従って顕著な帯状分布を示す2)ので,これも海岸断面の傾斜が緩いほど,個々の生物種の生息可能基盤面積が大きくなる.さらには,緩斜面では生物が基盤から脱落しにくいという利点もある.このようなことから,緩やかに傾斜した断面構造を持つ海岸構造物(護岸以外に防波堤などもあるが,本稿では便宜上,緩傾斜護岸と称する)は,垂直に切り立った海岸構造物(同様に,以下,垂直護岸と称する)に比べて,生物量が多くなることが期待される.
 大阪湾の泉州沖に造成された関西国際空港島(以下,関西空港島と称する)は,周囲の護岸の大部分に石積みの緩傾斜護岸を採用した人工島として知られている.緩傾斜護岸を多く採用した理由としては,前面海域の利用状況から見た反射波低減の必要性や護岸施工期間短縮の必要性などが挙げられているが3),その形状特性から海藻類など海域生物の生育・生息空間となることが期待され,人工的な種苗移植による藻場造成が行われるとともに,生物生息状況のモニタリング調査が実施されてきた3).筆者らもここをフィールドにして,護岸生物を対象とした様々な調査や実験を行っている.本稿では,それらの結果から,生物の生息・生育空間としての緩傾斜護岸の有効性と,現時点での課題について考察したい.
キーワード:緩傾斜護岸,空港島,海藻,カサゴ,多様性
特集タイトル 浅場機能の復元・再生・創出を目指した環境配慮型構造物
特集のねらい