「環境技術」2017年11月号 記事情報

掲載年 2017
巻(Vol.) 46
号(No.) 11
567 - 567
記事種類 特集
記事タイトル 特集のねらい(人工湿地による水環境保全)
著 者 惣田 訓
第1著者ヨミ SODA
第1著者所属 立命館大学
要 旨
特集タイトル 人工湿地による水環境保全
特集のねらい  湿地とは,淡水や海水に冠水する低地のことであり,湿原や湖,沼,水田,ため池,干潟,マングローブ,藻場,サンゴ礁なども含み,水生生物にとって重要な生息環境である.“人工”湿地(constructedwetland)は,それを人工的に再現し,水環境の保全を主な目的として,微生物や水生植物などに汚水を浄化させる方法である.自然再生を主な目的とする(湿地の)ビオトープづくりとは,共通点もあるが,目的が大きく異なっている.
 人工湿地による汚水の除去機構は,土壌による吸着・ろ過や,植物体による吸収,根圏微生物による代謝など,自然湿地が持つ自浄作用と原理は同じであり,その機能が最大限に発揮できるようにデザインされている.汚水処理として利用されてきた好気性ラグーン(酸化池)と似ているが,人工湿地では,水深を浅くすることで,土壌や水生植物による浄化効果がより積極的に利用されている.物理化学的な高度処理に比べて維持管理が容易であり,機械類や化学薬品,エネルギーの使用が少なく済む利点を有している.
 欧米諸国では生活排水や農業排水の水質浄化手法として人工湿地の利用が進みつつあるが,人工湿地には,広大な面積が必要であり,生物化学反応の速度を左右する気温の年変化が大きい日本では,その利用は限られてきた.しかし,人口が減少している日本では,従来型の集約的な汚水処理計画の見直しも必要となり,分散型,省エネルギー型,自然共生型などをキーワードとする多様な処理技術が必要である.最近では,国内における人工湿地の適用事例も増えつつあり,植物の生育に適した東南アジア諸国にその技術を適用する事例も増えてきた.そこで本特集号では,様々な汚水・地域を対象とした導入事例を紹介し,人工湿地のさらなる普及に向けた課題と展望を提起する.
 東北工業大学の矢野篤男先生は,日本水環境学会東北支部の人工湿地研究会の中心人物の一人である.「人工湿地の浄化機構と普及への課題」において,人工湿地の歴史や浄化機構,課題などをまとめていただいた.
 国立研究開発法人農研機構東北農業研究センターの加藤邦彦氏らには,「畜産系有機排水を安定して浄化する伏流式人工湿地ろ過システム」を執筆していただいた.北海道と岩手の寒冷地における実規模の人工湿地の処理成績や費用のデータは,国内の人工湿地の普及促進の貴重な裏付けとなるものである.
 鰍スすくの家次秀浩氏らには,民間企業の立場から「人工湿地浄化システムの日本とベトナムにおける実用化と展望」を執筆していただいた.畜産廃水を主な対象として,国内外ですでに18ヵ所の人工湿地の導入をしており,メタン発酵技術との組み合わせや,ベトナムでの事業展開の最新情報も紹介されている.日本大学の中野和典先生らには「花壇型人工湿地による学生食堂排水の処理」を執筆していただいた.花壇型という人工湿地の形態もユニークながら,大学の食堂排水の処理という実践的な環境教育と連動していることにも特徴がある.
 国立研究開発法人国立環境研究所の尾形有香氏らには,「タイでの埋立地浸出水を対象とした人工湿地の適用可能性の評価」を執筆していただいた.ごみを直接埋立している処分場の浸出水には,多様な汚染物質が含まれており,降雨や蒸発散なども考慮したパイロットスケールの人工湿地での貴重な研究である.
 本特集号では紹介しきれないが,対象水としては都市下水やその二次処理水,鉱山廃水など,除去対象としては難分解性有機物や,金属・半金属,病原微生物などへのさらなる応用も期待している.最後に,ご多忙のなか,ご執筆いただいた方々に深く感謝申し上げる.