「環境技術」2017年12月号 記事情報

掲載年 2017
巻(Vol.) 46
号(No.) 12
623 - 623
記事種類 特集
記事タイトル 特集ねらい(生物分布調査における環境DNA分析の可能性)
著 者 古武家善成、惣田訓
第1著者ヨミ KOBOKE
第1著者所属 神戸学院大学
要 旨
特集タイトル 生物分布調査における環境DNA 分析の可能性
特集のねらい  環境DNA(environmental DNA; eDNA)とは環境,主に水環境中に存在する生物のDNA 断片のことである.その大部分が微生物由来であることはよく知られているが,その中から,魚類,両生類,甲殻類などマクロな生物の生死体の表皮・組織片,生体からの分泌物・排泄物などが由来のDNAをターゲットとした研究が注目されている.
 環境DNA 分析手法は,数mL から数L の水試料で短時間に測定できることから,1980年代後半から微生物群集構造の解析に用いられるようになった.マクロ生物への環境DNA 分析の適用は,フランスのFicetola らが池に生息するウシガエルを対象とした2008年の論文が最初と言われている.その後,水中のマクロ生物の在・不在,外来種・希少種の検出やバイオマス推定に環境DNA 分析を利用する手法が,生態学,陸水学,水産学の分野を中心に急速に発展している.日本では,本特集の執筆者の一人である源先生らが,京都の桂川に生息するオオサンショウウオのモニタリングに環境DNA を用いたことが2015年の新聞のニュースとなり,社会に広く知られるようになった.
 筆者もこの新聞記事を読み,大変興味深いフィールド調査法が開発されたと驚いたことを覚えている.当時,この手法に対しては現地調査を重視する立場からその有効性に疑問を持つ研究者もいた.しかし,その後この調査法は大きく発展し多くの成果を上げている.本特集では2015年当時散見された懐疑的な意見に対しても,最後の論文で課題として丁寧に論述されている.
 神戸大学大学院人間発達環境学研究科源利文先生の「水域生態系における環境DNA モニタリング手法開発の現在」では,本手法を知るための導入編として,この研究の歴史や調査・分析法の概要と考慮すべき点,幅広い生物群への適用の可能性などが述べられている.
 大阪大谷大学薬学部内井喜美子先生の「環境DNA による外来種および希少種の迅速な検出」では,この手法の迅速性,簡便性,高検出力,経済性,非侵襲性などの特徴により,国内外における外来種や希少種調査への適用の有効性が報告されている.また,手法の核となるPCR(PolymeraseChain Reaction)法に対する腐植酸などの阻害や環境DNA の半減期問題にも触れられている.
 島根大学生物資源科学部高原輝彦先生の「水生動物の生物量,季節分布と移動における環境DNA を用いた推定」では,この手法を用いることにより,対象生物の在・不在だけでなく,生物量や季節分布・移動など生態学的により有用な情報が迅速に得られた事例について詳述されている.また,陽イオン界面活性剤を用いた採取DNA分解抑制,検出感度向上が見込まれるデジタルPCR など,技術面での進歩についても述べられている.
 兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科土居秀幸先生の「環境DNA メタバーコーディング解析による生物群集解析」では,この手法を環境水中に含まれる魚類などの分類群に属する全ての種の網羅的解析に適用する,メタバーコーディング手法について解説されている.課題として妥当なユニバーサルプライマーの開発やデータベースの充実が指摘されている.
 本特集執筆者全員の共著による最後の論文「環境DNA モニタリング手法の課題と展望」では,この特集のまとめとして実際の生物分布との時空間的齟齬,生死など生物の状態把握の困難性などの問題点が検討されている.
 環境DNA 分析法には克服すべき課題も少なくないが,生態学のみならず多くの分野での利用可能性を秘める魅力的な研究手法である.この特集で魅力の一端に触れていただきたい.
(*神戸学院大学/本誌編集委員,**立命館大学/本誌編集委員)