「環境技術」2017年12月号 記事情報

掲載年 2017
巻(Vol.) 46
号(No.) 12
630 - 635
記事種類 特集
記事タイトル 環境DNAによる外来種および希少種の迅速な検出
著 者 内井喜美子
第1著者ヨミ UCHII
第1著者所属 大阪大谷大学
要 旨 1.はじめに
 環境DNA 分析とは,水や土壌といった「環境媒体」の中に存在する「DNA」の痕跡により,生物の在・不在を確かめ,その分布を推定する方法である.警察の科学捜査において「遺留物」中に存在する「DNA」の特徴から犯人を特定するDNA 型鑑定とよく似ている.ただし,DNA 型鑑定は「個人」を識別することを目的としているのに対し,環境DNA 分析は主として「種」の検出を行う.「環境DNA」の概念は意外と古い.1980年代には環境水中にはたくさんのDNA が存在し,その大部分が微生物に由来することが明らかにされていた1).しかし,環境DNA が大型生物(目に見える大きさの生物という意味)の分布推定にも利用できることが分かったのはごく最近のことである.2008年,Ficetola らは,ヨーロッパの湿地帯において,北米原産のウシガエル(Ranacatesbeiana)が侵入した池の水からは,ウシガエルのDNA が検出されることを報告した2).つまり,水から抽出した環境DNA の中にターゲットとする生物由来のDNA があるかないかによって,その場所にその生物がいるかどうかを推定できることを示したのである.その後,日本や北米の研究者からも,環境DNA を用いた大型生物の分布推定に関する研究成果が次々と発表され,今日までに環境DNA 研究は急速に発展することになる.
 環境DNA 分析の活用法として社会的ニーズのとりわけ高い課題が,外来種や希少種の分布把握である.環境媒体におけるターゲット種由来のDNA の有無でその在・不在を判定する環境DNA 分析は,調査現場での作業が環境媒体(例えば水)を採取することだけである.つまり,従来の動物分布調査において最も骨の折れる捕獲や目視探索の作業を行わなくて済み,調査の迅速化を実現できる.捕獲や目視探索のように,調査従事者の技能や熟練度によって結果が左右されることがなく,「いない」という思い込みによる見逃しが起きにくいという利点もある.さらに,希少種や絶滅危惧種の個体群を撹乱することのない非侵襲的な調査法としての期待も大きい.そこで本稿では,環境DNA を用いた外来種や希少種の分布推定に焦点を当て,その応用法について解説する.従来の捕獲や目視による調査法と比べ,環境DNA 分析がどのくらいの感度で生物を検出できるのかに加えて,環境DNA 分析に基づく分布推定結果の信頼性についても詳しく触れたい.
キーワード:環境DNA,外来種,希少種,絶滅危惧種,分布調査
特集タイトル 生物分布調査における環境DNA 分析の可能性
特集のねらい