「環境技術」2017年12月号 記事情報

掲載年 2017
巻(Vol.) 46
号(No.) 12
648 - 652
記事種類 特集
記事タイトル 環境DNAモニタリング手法の課題と展望
著 者 源 利文、内井喜美子、高原輝彦、土居秀幸
第1著者ヨミ MINAMOTO
第1著者所属 神戸大学大学院
要 旨 1.環境DNA 研究の到達点
 本特集では,環境DNA 分析を用いたマクロ生物のモニタリング手法について,現時点の到達点を示してきた.繰り返し述べられていたとおり,環境DNA 分析では現場での作業が採水だけであるため,誰もが比較的簡単に調査に参加することができる1).ろ過などでDNA を濃縮してしまえば,そこから先のDNA 抽出や,PCR などの分子生物学的実験技術はこれまでに長年かけて蓄積されてきたものの転用であり,DNA を扱った経験のある生物学者にとって決して高くないハードルである.
 このように,比較的簡単にできてしまう環境DNA 分析であるが,その応用性は幅広く,種特異的な検出による希少種や外来種の検出2),環境DNA 定量による生物量の推定や季節移動の検出3),環境DNA メタバーコーディングによる生物群集の網羅的解析4)などに用いられ,大きな成果をあげてきた.初期には魚類や両生類が主なターゲットであったが,軟体動物,節足動物,刺胞動物などへの適用も進み,最近では水生植物や陸生ほ乳類への適用も報告されるなど,あらゆるマクロ生物に適用可能であるのではないかと考えられている.
 一方で,環境DNA の世界にはわかっていないことがいまだ多くある.例えば,その由来一つとっても,排泄物や分泌物などいろいろな可能性が指摘されているものの,実証的な研究は不足しており,水中の環境DNA 量のどれくらいの割合が排泄物に由来するかなどの具体的な情報は皆無である5).同様に,我々が環境DNA と呼んでいるものがどのような状態で水中に存在するのかも不明である1).このような,最も基礎的な項目すら理解されていない状況であるが,水を汲めばどこに何が生息しているかがわかるというそのシンプルさのおかげか,環境DNA を用いた生物モニタリングは大きく発展を遂げてきた.しかし,ここで一旦立ち止まって,現時点での課題について整理する必要があるだろう.
 本稿では,マクロ生物の環境DNA 分析に関する課題を,環境DNA から得られる情報と実際の生物分布の間の時空間的な齟齬の問題,生死を含む生物の状態を知ることができないという問題,種の判定をDNA 塩基配列データベースに依存するがゆえのデータベース不足に関する問題にわけて状況を整理した.その上で,今後の研究の発展について述べる.
キーワード:時空間スケール,社会実装,データベース,ビッグデータ
特集タイトル 生物分布調査における環境DNA 分析の可能性
特集のねらい