「環境技術」2008年12月号 記事情報

掲載年 2008
巻(Vol.) 37
号(No.) 12
833 - 833
記事種類 特集のねらい
記事タイトル 「医薬品の環境負荷と環境汚染」特集
著 者 古武家善成
第1著者ヨミ こぶけ
第1著者所属 (財)国際エメックスセンター
要 旨
特集タイトル 医薬品の環境負荷と環境汚染
特集のねらい  医薬品は私たちの命を守るのに不可欠の化学物質である.その意味では,医薬品の使用に制限が加わるようなことがあってはならない.しかし,一方では,同じ患者に異なる医療機関から類似の薬が処方され,患者がそれを服用せずに捨てるという類いの話しを耳にして久しい.これは医療制度の不備を表しているのに他ならないが,このように捨てられ,あるいは体内から排出された過剰の医薬品は,最後には環境に負荷され環境を汚染することになる.
 医薬品による環境汚染問題がヨーロッパ,アメリカの研究者の大きな関心を呼んでいることを,編者は6年前のある国際学会で知った.その当時,日本では内分泌撹乱化学物質,いわゆる環境ホルモン物質による環境汚染や環境動態がまだ研究の中心になっており,編者もその関連の発表を行っていた.その時,これまでの環境汚染問題と同様に,「数年後には日本でもこの問題に関する研究が広がるだろう」と考えたが,その予想は見事に当たった.ここ1,2年の間に,日本でも医薬品の環境汚染に関する研究が急速に進んでいる.
 本特集では,このように,日本でも知見が蓄積してきた医薬品の環境汚染問題に焦点を当てた.医薬品の適用を考えた場合,それは人間に対してのみではない.畜産業や水産業でも,効率を求めた密集飼いに由来する感染症防止の目的での使用はもとより,肉質向上のためにも多くの医薬品が使用され,一部では「薬漬け」と批判される状況にいたっている.そこで,この特集では,医薬品による環境汚染の概要や研究の基礎となる微量分析法の現状とともに,畜産業や水産業における医薬品使用の状況についても取り上げた.
 京都大学の田中宏明先生らには,「水環境の医薬品類汚染とその削減技術の開発」という題で,日用品を含む100種類以上の医薬品類について,一斉分析法,河川での残存状況,処理法,生態毒性評価など,全般的な現状を執筆いただいた.大阪産業大学の尾崎博明先生らには,「環境中微量医薬品分析の現状と課題」という題で,水環境中の医薬品の微量一斉分析法として LC/MS/ MS法の適用を詳述いただいた.
 帯広畜産大学の岩佐光啓先生には,「動物用医薬品による放牧地の糞の残留汚染−イベルメクチンが非標的糞分解昆虫に及ぼす影響−」という題で,牛用駆虫剤のイベルメクチンが糞中に排出され,標的でない昆虫の個体群にも大きな影響を及ぼしている貴重な調査結果を報告いただいた.
 農林水産省動物医薬品検査所の遠藤裕子先生には,「動物用医薬品の環境影響評価とリスク管理」という題で,魚類も含む動物用医薬品の環境影響評価手法やリスク管理の現状について,具体的なガイダンスを多数引用しながら詳述いただいた.
 北海道大学の吉水守先生らには,「水産業で使用されている医薬品」という題で,多岐にわたる水産用医薬品について簡潔にまとめていただいた.
 最後に,国立医薬品食品衛生研究所の西村哲治先生らには,「環境中の医薬品類由来の化学物質によるヒトに対するリスク評価」という題で,多摩川水系などで検出された医薬品の実態濃度をもとに,ヒトへのリスク評価を詳述いただいた.
 これらの論文で示されている現況から,国内においても水環境中に医薬品が残留し,医薬品による環境汚染が進行していることは明らかである.しかし,生態系やヒトへの影響に関しては,一部の事例を除き明確になっていない.また,個々の環境濃度は必ずしも高くないが多数種が残留する医薬品の複合影響に関する研究については,他の化学物質の場合同様進んでいるとはいえない.これらの課題への急速なアプローチが望まれる.