「環境技術」2018年2月号 記事情報

掲載年 2018
巻(Vol.) 47
号(No.) 2
59 - 59
記事種類 特集
記事タイトル 特集(生物応答を利用した排水管理法(WET手法)の現状と展望)
著 者 古武家善成
第1著者ヨミ KOBUKE
第1著者所属 神戸学院大学
要 旨
特集タイトル 生物応答を利用した排水管理法(WET 手法)の現状と展望
特集のねらい  Web 上で「環境省」と「WET」を打ち込むと,環境省2015年11月20日付の報道発表資料がヒットする.これは,環境省が,生物応答を利用した排水管理手法(WET 手法)の活用に関する検討会の報告書に対し,パブリックコメントを求めた記者発表資料である.
 環境省は,排水管理へのWET 手法の導入の可能性について,研究者を中心とした検討会(「生物応答を利用した水環境管理手法に関する検討会」)を2010年度に設置し検討を進めてきた.その後,検討会の成果としてまとめられた報告書の公表とそれに対するパブリックコメントを受け,2016年度からは,大学・研究機関の学識経験者以外に自治体の専門家,環境市民団体関係者,経団連他産業界関係者らを加えた新たな検討会(「生物を用いた水環境の評価・管理手法に関する検討会」)を設置し,WET 手法を排水管理に適用する是非について議論を進めるとともに,実証のためのパイロット事業を実施している.議論の方向は,排水の規制手段としてではなく企業の自主的排水管理の手法としての導入に主眼が置かれている.
 WET(Whole Effluent Toxicity)手法と称される生物応答(バイオロジカルレスポンス)を利用した排水管理手法はなぜ必要か.その背景には,私たちの身の回りで使用される化学物質が爆発的に増加している現実があり,未知の毒性化学物質や未規制化学物質の生態・健康リスクが存在するからである.
 これまで国の化学物質管理は,個別物質の毒性把握やリスク評価を優先的に進められてきた.しかし,化学物質の複合毒性や未知・未規制化学物質の毒性リスクに対処するには,個別規制では限界があることから,工場・事業場排水に関するこれまでの管理を補完する手法として,排水の毒性を“総体的”に評価する必要性が強まってきた.このような状況や,米国,カナダ,欧州などで1970年代から徐々にWET 手法が導入され,韓国でも近年適用が始まるなど導入が進む諸外国の状況を踏まえ,環境省は排水管理への“日本版”WET手法の導入を目指している.
 しかし,パブリックコメントの約半数が民間企業や業界団体からの意見で占められたことにも表れているように,産業界の慎重論や反対意見は強い.経団連HP に掲載された2016年1月19日の「WET 手法の活用の再考を求める」意見表明では,@日本での活用の問題点,A企業の経営に与える弊害,B自主的取り組みを国が促す是非などの観点から,導入への反論が示されている.
 本特集では,このようなホットな議論がなされているにもかかわらずあまり取り上げられていなかったWET 手法について,この手法を長年にわたり研究されている大学,国立研究所の研究者と,環境省や民間分析機関の専門家に執筆をお願いした.
 熊本県立大学の有薗幸司先生には,バイオアッセイの体系とその有用性を精査する中で,日本版WET 手法の今後を展望いただいた.
 愛媛大学の鑪迫典久先生ほかには,WET 手法の意義と課題について,検討会での議論を踏まえながら詳述いただいた.
 (国研)国立環境研究所の山本裕史先生ほかには,自治体の研究機関と共同で実施しているセミナーやテストの結果を踏まえ,WET手法の実試料への適用における課題について詳述いただいた.
 環境省の甲斐文祥先生には,環境省で実施しているWET 手法検討会の流れを振り返りながら,現在までの議論の到達点を整理いただいた.
 貝 S I メディエンスの新野竜大先生ほかには,排水中の化学物質の影響評価研究に関する国際的な流れをまとめ,WET 手法の技術的な検討課題の細部を詳述いただいた.WET 手法は化学物質の個別管理の限界を打破できるか,新しい検討会の結論に注目したい.