「環境技術」2020年5号 記事情報

掲載年 2020
巻(Vol.) 49
号(No.) 5
239 - 239
記事種類 特集
記事タイトル 特集のねらい
<水中残留農薬の中長期的リスク評価を見据えて>
著 者 須戸 幹
第1著者ヨミ SUDO
第1著者所属 滋賀県立大学 
要 旨
特集タイトル <水中残留農薬の中長期的リスク評価を見据えて>
特集のねらい 農地に散布された農薬は,ベースとなる食糧を供給するために必要不可欠な農業資材として,農作物の増収や労働力軽減に多大な利便性(ベネフィット)をもたらしている.その一方,河川や湖沼に流出・残留する一部の農薬が,水環境中に棲息する生物や生態系に対して好ましくない影響を与える可能性(リスク)が懸念されている.
農薬のベネフィットとリスクのバランスをとるためにはリスクアセスメント,すなわち生態系に対する毒性濃度と,生態系が受ける曝露濃度を比較し,曝露濃度が十分低ければ農薬成分の残留を許容することが現実的である.
河川や湖沼における農薬濃度のモニタリングは,残留濃度が許容濃度の範囲内にあることを確認するために継続的に行われなければならない.さらに,モニタリングで得られた知見をフィードバックすることで,リスクアセスメントに用いる生物種や農薬の曝露量に対して,より実際の環境に近い条件となる手法を提案することができる.
水中に残留する農薬濃度の基準値は,現在,いくつかの対象生物に対する急性毒性値と,毒性試験期間中(2〜4日)の推定曝露濃度に基づいて設定されている.しかし生態系への影響を網羅的に評価するため,最近,評価対象生物種が水産業に関連する水産動植物から,陸域を含めた生活環境動植物に拡大された.さらに短期間曝露だけでなく,より中長期的な曝露による生態系への影響評価を行うための手法の確立が進められている.
短期間の曝露濃度をモニタリングデータで得ることは比較的容易である.しかし農地ごとに散布日や散布回数が異なること,降雨時には河川への流出量が増加すること,農地以外の土地利用から流入する水が農地からの流出水を希釈することにより,排水路や河川の中長期的な農薬濃度は大きく変動する.そのため,精度の高い曝露評価を行うためには,コストと手間をかけて高い頻度でモニタリングを行う必要がある.
現在の毒性評価は,実験室内において,試験生物種を一定の農薬濃度で短期間曝露させた場合,半数が影響(致死や増殖阻害など)を受ける急性影響濃度で行われる.しかし実際のフィールドに試験生物種が必ずしも棲息しているわけではなく,現場の生態系評価に対する不確実性を払拭することはできない.さらに実験室内と異なり,中長期的に大きく変動する曝露濃度に対する応答にも不明な点が多い.
以上のように,現場の状況を踏まえた農薬の中長期的リスク評価には現場に即した曝露評価と毒性評価が不可欠であるが,現状ではそれらを満足するモニタリング手法は確立されていない.この特集では,まず行政の視点から,農薬取締法の歴史的な流れと,今後重要となる中長期的なリスク評価の背景と意義,および今後の課題を解説いただいた.次に曝露評価の視点から,吸着樹脂を一定期間河川に浸漬して農薬の平均濃度を算出するパッシブサンプリング法の概要と原理を,毒性評価の視点から,生物影響評価手法の考え方と,感受性の高い水生昆虫の生育初期段階を用いる現場バイオアッセイ法を取り上げた.いずれの内容も,第一線で活躍されている専門家に実例を交えて解説いただいた.さらに曝露量評価,毒性評価の新しい現場モニタリング手法について,実際の取り扱い方法を詳細に紹介していただいた.
これらの知見や手法が,データの蓄積とさらなる改善・改良を通して,今後の中長期的な環境モニタリング手法のスタンダードになる一助になれば幸いである.