「環境技術」2021年2号 記事情報

掲載年 2021
巻(Vol.) 50
号(No.) 2
63 - 
記事種類 特集
記事タイトル 特集のねらい<船舶を取り巻く排ガス規制の動向と技術開発>
著 者 船坂邦弘
第1著者ヨミ FUNASAKA
第1著者所属 大阪市立環境科学研究センター
要 旨
特集タイトル 船舶を取り巻く排ガス規制の動向と技術開発
特集のねらい 我が国の貿易量は,輸出入を合わせて年間9億トンを超える.この内99%以上を船舶が運んでおり,海上交通は島国である日本経済の重要な役割を担っている.一方で,船舶による海洋や大気といった環境への影響は古くから指摘されており,時代の要請に応じて技術的な対策がとられてきた.
 海洋環境の汚染防止に関しては,1973年に国際条約(MARPOL 条約)が採択されて以降,油(1983),ばら積み有害液体物質(1987),廃棄物(1988),個品有害物質(1992)に対して防止策が講じられた.その後,「船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約(2004)」が国際海事機関(IMO)で採択され,2009年以降はバラスト水処理装置の搭載が義務付けられた(詳細は本誌2009年6号特集を参照).
 大気汚染対策については2005年以降,段階的に燃料の規制が強化されており,2020年1月には一般海域においても重油燃料中の硫黄分含有率が従来の3.5%から0.5%へと大幅に強化された.今回の排ガス規制強化は,様々な発生源からなる大気汚染物質のうち,港湾域を起因とする粒子状物質(PM)や硫黄酸化物(SOx)の削減が期待されるものである.
 国土交通省では今回の規制強化に伴う具体的な対策として,@規制適合油の使用,A排気ガス洗浄装置(スクラバー)の設置,B LNG の利用を掲げている.また,船舶業界においてはこうした排ガス対策だけではなく,地球温暖化対策も重要な課題として位置づけられている.
 折しも政府は2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し,脱炭素化を進める企業の技術革新を後押しし,環境と経済の好循環を狙うこととなった.特に水素やアンモニウムといった燃料など重点14分野の発展が期待されており,船舶もその一つとして挙げられている.
 本特集では,海上技術安全研究所から,法的及び技術的な側面から船舶業界における温暖化も含めた排ガス対策の最新動向について全般的に解説いただいた.船舶を取り巻く環境規制については,その歴史的な経緯も含めて網羅されている.また,温室効果ガス(GHG)規制については,中長期的な目標に加え,将来の代替燃料についても示されている.
 大気分野からは今回の規制によってどの程度大気が浄化されるのかについての推定方法と,瀬戸内をモデルの対象とした結果を,大学から執筆いただいた. SOx やPM の解析が現在も継続中で,加えてコロナ渦にあって,実情観測期間が限定されているという状況にもかかわらず,試算結果を示していただいた.
 船主業界における取組・対応・課題については,低硫黄燃料油を用いる場合のスラッジの生成やワックス化といった具体的な課題など,その対応と難しさを随所に示していただいた.また,コスト増は業界や企業だけでは負担しきれない点についても触れられており,経済面でも一層関心が高まることが期待される.
 造船業界の環境対応への取組として,スクラバーシステムやLNG 燃料供給システムといった具体的な装置について,写真等も大いに活用し,詳細に解説いただいた.現時点で温室効果ガスの削減にも有効とされるLNG については適切なガスハンドリングが必要なことや小型化といった新規の取組についても紹介いただき興味深い内容となっている.
 このように本特集では,船舶業界と大気環境といった普段はやや専門性の異なる双方の分野からのアプローチを試みた.本誌ならではの相乗効果によって読者の理解が総合的に深まることを期待し,未来の海上交通環境へと思いを繋げたい.