「環境技術」2021年3号 記事情報

掲載年 2021
巻(Vol.) 50
号(No.) 3
119 - 119
記事種類 特集
記事タイトル 特集のねらい
<持続可能な瀬戸内海は実現できるか>
著 者 古武家善成
第1著者ヨミ KOBUKE
第1著者所属 元 神戸学院大学
要 旨
特集タイトル <持続可能な瀬戸内海は実現できるか>
特集のねらい 1960年代後半から70年代にかけて「死の海」とまで言われ,「赤潮訴訟」まで提起される状態になった瀬戸内海も,1973年の瀬戸内海環境保全臨時措置法や,恒久法としての1978年の瀬戸内海環境保全特別措置法,その下でのCOD,栄養塩の総量規制(2016年度に第8次削減)などの水質規制の強化により,陸域からの負荷は着実に減少し,水質も改善傾向にあるが,COD,栄養塩の環境基準達成率は海域により異なり,赤潮や貧酸素水塊の発生が依然として問題になっている.しかし,一部の海域では貧栄養状態になってきたことから,ノリ養殖への対応として,2015年に措置法が改正され,「豊かな海」という考え方が導入された.栄養塩に関する基準緩和が検討されている.
 このように,瀬戸内海の水域環境には一律に考えられない状況が生じていることから,規制が始まって50年を経た瀬戸内海の水質および生態系の変化を捉え直し,瀬戸内海の今後を展望する.
 本特集の論文構成は以下のとおりである.当初の計画では,瀬戸内海の海況変化の全貌を特集の最初に提示するために,兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター技術参与の反田實氏に,瀬戸内海および播磨灘の海況・生物の長期変化について,執筆いただく予定であったが,職務のご都合で本号には間に合わなくなった.したがって,反田氏の論文は次号(「環境技術」第4号)に「解説」のジャンルで掲載するので,本号の特集と一体のものとしてお読みいただきたい.瀬戸内海の生態系がどのように長期的に変動してきたか,膨大なデータを駆使して解説される.第1席では,北海道大学名誉教授の門谷茂氏に,瀬戸内海の生態系における直近100年間程度の変遷について詳述していただき,瀬戸内海を再生させる提言をいただいた.解析の切り口は「浮遊生態系と底生生態系の相克」という視点であり,高度経済成長における浅海域の埋め立てや垂直護岸の形成,過度の人為的富栄養化などの要因が,その相克を惹起したとされている.
 第2席では,立命館大学名誉教授の仲上健一氏に,「瀬戸内海における生態系サービスの価値」というタイトルで環境経済学の視点から瀬戸内海の現状を分析いただいた.「生態系サービス」とは,いわゆる「自然の恵み」と言い換えられる概念で,「供給」「調整」「文化」「基盤」「保全」の5つに分けられる.何らかの手法でこれらの恵みを経済的価値に換算して,自然の喪失による価値の損失を,経済的視点で議論する環境経済学の手法が用いられている.
 第3席では,九州大学名誉教授の柳哲雄氏に,本特集のまとめとして,「“きれいで豊かで賑わいのある”持続可能な瀬戸内海の実現可能性」に関して,「富栄養化・貧栄養化ヒステリシスモデル」に依拠した知見をまとめていただいた.
 「ヒステリシス現象」とは,物質や系の状態が現在の条件だけでなく過去の履歴の影響を受けることを指し,履歴現象とも言われる.例えば,海域生態系では魚類などの生物量(漁獲量)は栄養塩の濃度や負荷量に影響されるが,同じ栄養塩濃度でも貧栄養化から富栄養化に移行する場合と逆の場合とでは生物応答が異なることが明らかになってきた.
 そのため,瀬戸内海の各海域の栄養塩管理を行う必要があること,その管理は研究者・漁民・環境保全団体などによる超学際的研究の形で実践されることが重要であると,指摘されている.