「環境技術」2021年3号 記事情報

掲載年 2021
巻(Vol.) 50
号(No.) 3
120 - 
記事種類 特集
記事タイトル 瀬戸内海における「浮遊生態系と底生生態系の相克」の修復に向けて
著 者 門谷 茂
第1著者ヨミ MONTANI
第1著者所属 (公社)北海道栽培漁業振興公社
要 旨 1.はじめに
 直近100年間程度の瀬戸内海における生態系の特徴の変遷について概観すると,近代化以前は流入して来る栄養塩濃度も低いことから,滞りのない物質循環系が保たれており,さらに平均水深が37m と浅くかつ透明度が高いことにより,底生の有機物生産が高く浮遊系(植物プランクトン)と底生系(底生微細藻類とアマモ場,ガラモ場など)のバランスが取れた状態で並立していた1).
 瀬戸内海における最も古い漁獲量統計値は1893(明治26)年の8万6,000トンであり,以降第二次世界大戦以前は10万トン前後で安定していた.戦後には人口増により食料供給量増大の要求に伴う漁獲量の急増が見られた.近代化の特徴は,人口増加と社会構造の変化に伴い,浅海域の大規模埋め立てによる水際線の変化(鉛直護岸の乱立と干潟・藻場の消失)にある.高度成長期には,重化学工業を中心とした産業構造の変化が顕著で,人口が増加したにもかかわらず下水道整備の遅れ,さらに人間活動増に伴う栄養塩負荷の急増が見られた.よく知られているように,これに伴い赤潮の頻発や貧酸素水塊の拡大などが明らかになり,生態系全体の脆弱化が明瞭となった.これは浮遊系が拡大し,底生系の貧弱化が明瞭となったことを示している2).浮遊系と底生系の基礎生産力は,門谷(2005)3)が指摘しているように現在の瀬戸内海では,およそ95:5の比率になっていることが示され浮遊系が肥大化している.1980年代には富栄養化の程度が最大化しておりさらに,漁獲量は45万トンまでに至った(単位面積当りの漁獲量は20トン/.を示し,世界でも屈指の高い値となった).1990年代以降の現在に至る過程は,生産量の下行期と表現され,栄養塩負荷の減少が顕在化した.近年漁獲量は15万トン前後で推移しており,栄養塩濃度の低下に伴う基礎生産力の減少が主因であるとの主張がなされている.
 そこで本稿では,問題の在処を広く捉え,これまであまり注目されてこなかった,瀬戸内海における「浮遊生態系と底生生態系の相克」の解消と本来の姿への転換のためのいくつかの視点を取り上げ,議論する.
キーワード:浮遊生態系,底生生態系,栄養塩,埋め立て,瀬戸内海
特集タイトル <持続可能な瀬戸内海は実現できるか>
特集のねらい